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俺は、心に嘘がつけない。
体の行動で感情は押さえ込んでいたが、それももうもたない。
俺には最初から、もう忍と出合った時から一番に考え大切にしてきたのは忍のことだけだから。
あいつが消そうとしている忍自身を取り戻したい、そう思った。
思い出したくなくても、忍を消したくないから。
ある日、忍のへ家に行けば少し驚いていたが、すんなりと部屋に入れてくれた。
忍は冷静さを装うとしているのか、もう心の忍を消してしまったのか、また表面上だけで俺に接していた。
その日から、忍の部屋に通うようになった。少しでも俺を知ってもらおうと、話をしに。
俺に心を開いてくれるよう、俺を知ってもらうことから始めた。
忍は嫌がらず俺を部屋に受け入れてくれる。仕事や子どもの頃の話など、なんでもいいから忍にはなした。
それを聞いてどう感じているのかわからなけど、俺に出来る事はこれくらい。
数日が過ぎた頃、忍に聞かれた。まだその話をするのは先にしようと思っていたのに、聞かれてしまった。
「俺と、あなたの関係はなんですか?」
そのことにすぐに答えることができなかった。
姉の旦那とその弟、その関係に世間的に変わりはないが、それを知っているうえで聞いてきているんだ。
俺とこいつの間になにかがあったことは気づいていてもおかしくはない。
だけど『関係』には答えが出ない。記憶を失った忍に昔の関係を言えるわけがなかった。
俺の事を知ってもらう、心を開いてもらうそれが俺の目的だったのに、隠し事をしているのは俺のほうだった。
前と同じ、世間体を気にし、忍の事を公けにできなく、怯えていたあの自分のように。俺はまだ弱いままだった。
俺が返答に困っていると、忍が口を開いた。
「もう、俺に構わないでください。」
「俺、あなたといると苦しいんです。苦しくて苦しくて、近くにいたら壊れてしまう。・・・俺のものにならないんなら・・・」
小さな忍の声はだんだんに小さくなり沈黙に繋がった。
「・・・・いえ、なんでもないです。」
「・・忍?」
そのまま黙ったままの忍を見ていたら、急にたち立ち上がって、俺に近寄ってきた。
そして静かにキスをしてきた。
突然の事で言葉を失っていると、一筋の涙を流しながら忍は俺を見つめていた。
「俺は・・・あんたに対して変な感情がある・・・。俺は・・・気持ち悪い。あんたに・・・男にこんな感情をもつなんて・・・」
下を向き、ぼろぼろと涙を流していた。
混乱して自分の事を“気持ち悪い”といい続ける忍。そんな忍を落ち着かせようと肩に手を伸ばそうとしたら暴れだした。
「や、・・触るな!!俺は気持ち悪いから・・・」
気持ち悪いなんてことあるか、俺はその気持ちでいっぱいだった。
俺も忍に恋愛感情を持ち始めた時は自分はおかしいんではないか、どうして同性にそんな感情を抱くのか苦悩した。
だけど、忍は俺のことを好きだと言ってくれたから、先に俺に向けられる感情があったから俺はその気持ちを認めることができた。
きっと忍はあの時の俺と同じだ。不安で、自分さえもわからなくて怯えているに違いない。
暴れる忍を無理やり抱きしめる。それでも抵抗しようとするのでなだめるように「大丈夫だから」と囁いてやる。
少し経ち忍も落ち着いたときに、顔を覗き込み触れるだけのキスをする。
忍も驚いていたが、もう一度、今度は優しく抱きしめながら耳元で話してやった。俺たちの関係を。
忍の知りたかった全てを。俺の話を最後まで静かに聞いていた。
次へ。