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それはいつもの朝。
忍は起きると朝食をとるためリビングまで降りてきていた。
忍が戻ってきてから毎日繰り返される同じ光景。
言葉を交わす数は少ないが、顔を長くあわせる唯一の機会。父親も母親もその時を大切にしている。
「おはよう、忍。」
リビングに入ってきた忍に両親は挨拶をする。
それに答える忍はいつも小さく一言『おはようございます。』と他人行儀に言う。
「父さん、母さん、おはよ。」
だけど今日は違った。『おはよ』と親しげに言う。
両親の事を、父さん・母さんと呼ぶ事のなかった忍が今確かに2人のことをそう呼んだ。
そのことに驚き言葉を失っていると、さらに忍は2人に向かって言った。
「2人とも何驚いているんだよ?」
まるで普通に、昔に戻ったように忍は話しかける。
訳が分からないという風に忍の頭には「?」マークがさまよう。
「忍、お前・・・」
「思い出したの?」
両親の言葉に、やはり理解できないのか忍は訝しげな目で見つめることしか出来なかった。
「思い出すってなんだよ?」
「・・・私達の事を思い出したのか?」
「思い出すも何も、父さんと母さんじゃん」
簡単に言ってのけた忍に母親は泣き出し、父親は急いで理沙子と宮城に連絡をした。
理沙子と俺は学部長から、忍の記憶が戻ったと連絡を受け急いで実家に向かった。
マンションから実家までの距離がとても長く感じられる。車でも長く感じる距離にじれったさ。
目的地に着くと、急いで家に入る。
「忍?!」
開口一番に理沙子は叫ぶ。その声に気がつき、リビングからは学部長と奥さんが出てきた。
そして、忍もその後に続くように顔を出した。
「忍!!」
忍の元まで走ると、理沙子はきつく抱きしめていた。
「姉貴、痛ぇよ!!」
忍は本当に思い出したんだ。こないだまで理沙子の事を『姉貴』と呼ぶ事はなかったのに。
忍と理沙子を囲み微笑む両親を見て、そこには高槻家という温かい家庭が見えた。
「ほら、庸も心配していたんだから。」
そう言って、理沙子は忍を離す。
「庸?」
「あんたのお義兄さん。」
言葉と共に、忍を俺の前に出させた。
だけど、記憶を思い出したはずの忍は、まだ俺の事がわからないという風に見つめ、そして微かに震えていた。
「庸よ。あんたのお義兄さんの“宮城庸”よ。」
「宮城・・・庸・・・?」
「・・・?」
言葉も震え始めた忍に俺は不安を感じた。
まるで怖いものを見るように、怯えた目。
俺の中に警報がなったように心臓の動きは早くなる。
これ以上早くなったら止まってしまうのではないかというくらい。
「みや・・・ぎ?・・宮城・・・ぅ・・ぅわ・・・・ぁぁああああ!!!」
忍は叫び声をあげると、その場に倒れてしまった。
次へ。