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「忍、お前は無理をしなくていいんだぞ・・・」
「無理なんてしてない。宮城といるための無理なんて苦にならないから。」
隣を歩く忍は以前よりも強く見えた。
弱かった俺の心を強くし、立ち向かう事を教えてくれた忍とまた一緒にいることができる。
本当は言うつもりはなかったが、もう隠し事はしないと決めたから、学部長に俺たちの関係を話したのも、辞職したことも話した。
その話を聞き、忍は吃驚し自分の存在を咎めようとしたが、俺のしたかったことだと話せば最後には納得してくれた。
そして、もう足を踏み入れることがないと思っていた忍の実家へと来ていた。
忍は親と絶縁してでも俺といることを許可してもらうと、真剣な眼差しで俺に言った。
止めなくてはいけないことだとは分かっているが、忍もまた俺と同じ決断したこと。口出しは出来なかった。
「忍っ!!」
実家へと入れば、学部長も奥さんも心配そうに忍に駆け寄った。
「忍大丈夫なのか?!」
きっとその“大丈夫”には俺の事も含まれているだろう。学部長は俺の事を睨むのは忘れていない。
「父さん、母さん話がある。」
静かに忍が言えば、2人は黙って次の言葉を待った。
「・・・絶縁してほしい。」
小さな声でだけどしっかりと忍は告げた。
その言葉にめまいを起こした奥さんに、今にも倒れそうなくらい震えている学部長に自分たちは間違ったことをしているのではないかと思い知らされるが、今の俺たちにその光景は乗り越えるべき一つの壁でしかない。
覚悟はできている。何を失ったっていいという覚悟、お互いの存在は除いて。
「忍、そんなことが許されると思っているのか?!」
「思ってない・・・だけど俺は宮城といたいんだ!!親だって捨てられる覚悟はある・・」
「忍・・・、お願いだから目を覚ましてくれ、お前達は間違った世界にいるんだ。」
「宮城と一緒なら、どんな世界にいたって平気だ。」
忍は学部長に何を言われても気持ちは変えないという態度を崩さない。俺には何も口を挟むことができなく見ていることしか出来ない。
「・・・だから父さん、認めてほしいんだ・・・」
最後に一言いい、崩れ落ちる学部長を見て忍はそれを了承の意として受け取った。もうここは自分の居場所ではないというばかりに忍は家から出て行こうとする。
「待ちなさい、忍。」
部屋から出る前に、理沙子によって道を阻まれた。そして、手に持っていた紙を俺たちに見せるように掲げるとそれを破いた。散っていく紙を見ると“離婚届”と書かれていた。俺が理沙子に渡したものだった。
「理沙子・・・?」
破られた紙を見て、愕然としかできない。離婚したと思っていたのに受理されていない、まだ俺は理沙子の夫だというのか。
「姉貴!!」
「うるさいわよ忍。」
忍を無視するかのように理沙子は俺の元までやってくる。
「・・・・ないわ・・」
「え?」
小さな声で言われたことに聞き返してしまった。
「籍は入れていなかったの、庸と私の」
その言葉にその場の全員は言葉を失った。理沙子だけが喋っていた。
「あなたが再婚に乗り気でない事はわかっていた。分かっていたけど、私は庸といたかったから無理矢理再婚したわ。でも届けは出せなかった。庸と暮らして、いつか私を見てくれたら出そうと・・・そう思ってたの。だけどそれも意味なかったわね。まさか先に離婚届を渡されるなんて思ってなかったもの。」
俺と理沙子は再婚していなかった?初めて聞く真実で頭のなかの思考はパニックするか止まるかのどちらかになりそうなくらいだ。
「父さん、忍と庸を認めたらどう?」
「理沙子何を言っているんだ!」
「庸と離されたら今度こそ忍の心は壊れるわ。それに今回のことだって、私達がやったことだって当然だわ。庸と忍を引き離して苦しい思いをさせた。忍を思う気持ちがあるのなら認めるべきだわ。」
理沙子の言葉で全ては一転した。絶対認めようとはしなかった学部長が苦渋の決断のように認めてくれた。忍とも縁は切らないと。
「宮城君・・・」
「はい。俺はもうあなた達の前には現れません。」
「いや・・・違うんだ・・・」
何か言いにくそうに学部長は顔を伏せていた。
「父さん、言うんでしょ。」
「あぁ・・・」
理沙子の言葉に促されるように、学部長は言葉を続けた。
「君の辞表の件だが・・・あれは受理していない。」
そういって、俺の前で辞表を破った。
「君の仕事に対する姿勢は私も買っているんだ。仕事の事だけは私をガッカリさせてくれるな。」
学部長は心から許せるわけではないが、俺が忍の傍にいることをゆるしてくれた。
長いこと休職扱いにしてくれていたたこともあり、俺はまた大学で働けることになった。
ただ、無断で休んでいた事があり、教授から准教授へは降格された。
今まで住んでいたマンションを売り払い、少し小さな部屋へ移った。
それでも俺の生活は今まで以上に幸せだ。いつでも隣には忍がいる。新たな忍との生活が始まった。
次へ。