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忍はまたいなくなった。
昨日俺たちの気持ちはまた繋がったと思っていたのに、翌日忍のもとへ訪れれば部屋にはいなかった。
どこかへ出かけてるのかと思ったが、夕食時に俺たちのもとへ来る事はなった。
そして、またあのときの様に忍は数週間と部屋に帰ってくる事はなかった。
俺は焦っていた。またとん走が起こったのではないかと。
一度記憶を失い、さらに失ったらいったい忍はどうなってしまうのだろう。
また俺の気持ちは忍への足枷になっていたのかもしれない。
お互いの気持ちがいくら同じでも、今の状況は変わらない。俺は理沙子と結婚していて、忍との関係を公けにすることはできない。
浅はかだったのかもしれない、全てを忍に話せば戻ってくると思っていた。だが、結果はこれだ。忍はいなくなった。
だけど・・・
だけど、俺は決めたんだ。
忍を取り戻すと。
何を失ったって、忍を失う事はしたくない。
「理沙子、話がある。」
仕事から帰ってきたばかりの理沙子をソファへ座らせ、俺は向かい合わせに座る。
「話って何?」
俺の深刻な様子から、理沙子もただならぬ雰囲気を感じたのか真剣に見ていた。
「俺と離婚して欲しい。」
一気に詰まることなく要件を告げた。
俺の突然の言葉に言葉も出ないのかただただ理沙子は驚いていた。
前は理沙子から、今度は俺から離婚を告げた。きっと俺たちに運命などない。
2度も離婚をするんだ。『運命』など俺はとうに使い果たした。
忍と出会い愛し合うことに全部。
そんな運命の相手を手放すことなど出来ない。理沙子は何も喋らなかった。
それは俺のいった事を了承したのか、むしろ理解しているのかさえわからない。
だけどもう何を言われても自分の出した答えを変える気のない俺には、無駄になにも言ってこないことに、安堵していた。
次は学部長だ。
俺は全て話す。理沙子と離婚すること、理由、今までの忍との関係も、全て。
「な、何を言っているんだね君は・・・」
当たり前だ。突然の俺の話に学部長は理解しきれていなかった。
娘との離婚でも頭を悩ませる話なのに、その上忍との関係を知らされれば、誰だって混乱はするだろう。
「俺は、理沙子と別れ忍と一生を共にします。」
「ま、待て宮城くん。君は何か間違った事を口にしているんではないか?」
あくまで俺の言葉を真実として受け止めようとはしない。
「間違ってはいません。俺は忍と愛し合っていました。忍がいなくなるあの日までは・・・」
“あの日”と聞いて、学部長はハッとしたように俺の顔見た。
「まさか・・・忍が記憶を失ったのは・・・君の所為なのか?」
その言葉に、あぁやっと理解してくれたのかと俺は小さくため息をついた。
俺のその反応を見て学部長は我を忘れてように俺に掴みかかってきた。
「貴様がっ!!忍をっ・・・忍をっ!!」
俺はそれに逆らう事はできない。もう覚悟の上で全てを話したんだ。
「理沙子との離婚は認めてやる。理沙子の前にも、忍の前にも姿を現すな!!」
胸ぐらをつかまれ、すごい剣幕で言われたが、俺の心は怯まない。
「それは出来ません。」
「なっ、宮城くん!!自分の言っていることが分かっているのかね?!お前達は世間に顔向けできない罪なことをしているんだ!!それに忍だって君の所為で・・・そうだ、忍は今君のことを忘れている。だから、そっとしておいてくれ・・・」
“罪”
俺たちの関係が罪なのならば、俺は他のどんな罪だって受け入れられる。
忍といられるならどんな罰だって受けられる。俺を生かすも殺すも忍にかできないこと。
俺は忍の言ったことならなんだって受け入れよう。
それが本当に忍の望むことならば。
「学部長、俺はもう忍を失いたくないんです。俺の所為で忍が記憶を失い、また俺への気持ちで苦しんでいるのなら俺はそれをさせないために忍を安心させてやりたい。俺は他に何を失ったって、あいつだけは失いたくないんです。」
学部長は俺の言葉を愕然と静かに聞いていた。そして、俺は机に辞表を置くと、部屋から出て行った。
「お世話になりました。」
第五話へ。