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俺にはもうあいつ以外何も失う物はない。
地位だって、今まで積み上げてきた功績だって捨てたって惜しくはないんだ。
それに時間も沢山ある。忍を見つけ全ての時間を取り戻すんだ。
心も体も離れていた月日。
それはとても苦しい日々だった。早く忍と過ごしたあの日々を取り戻したい。
忍を探してどれくらいの月日がたっただろう。もう季節はあの日から一巡しようとしている。
熱くてジメジメとした梅雨の季節。5月も末に差し掛かり、雨の降る日が多くなってきた。
それでも毎日家から出ては、名も知らない町まで忍を探しに出かける。
生きている人間を探し求める事は、俺にとって苦ではない。
生きているのだから、また会って話して隣にいることができる。それだけが心の支えになり探し続けられる。
当てもなく足を進め、知らない駅名で下車する。
そして、道を進む俺は周りからはどこか挙動不審な動きに見えるだろう。
だけどあいつを見つけるためにはどこにだって目を配らなくてはいけない。
すると何処からか、拍手や歓声が聞こえた。なんとなしにその場に足を進めると小さな教会で結婚式が行われていた。
梅雨の時期に珍しく晴れた今日、そこでは新しい夫婦が誕生していた。
幸せそうにする新郎新婦。その光景を見て、前にも忍と出かけたときにこうやって結婚式を見たのを思い出す。
自分には関係ないからと切なそうに言うあいつを見て、「お前には俺がいる。」と言った。
あの時の言葉は本心で今も変わらない。ずっとこうして眺めているわけにもいかなく、また探しに行こうと前を見ると、俺と同じ様に結婚式を見ている人がいた。
その人物に目が奪われる。
俺と同じ様に、それを見ていたのは忍だった。切なそうに、今にも泣きそうに。
「忍っ!!」
声をかけていた。そして走り出していた。
俺の声に反応し反射的にこちらを見た忍は、突然走り出した。俺から逃げるように。
いや、逃げられている。
「忍っ」
追いかけながらも忍を呼ぶ声は止めない。
でも止まろうとはしない忍を追いかけていたら、いつの間にか海岸に出ていた。
砂の柔らかい砂浜は走りにくく、追っても追っても追いつかない。
それは忍も同じなのか、走りにくそうに我武者羅に走っているよう。
ただ俺から逃げることだけに懸命に。
だけど、ずっと体力も持つわけもなく忍は一瞬もつれた足でそのまま前に転びそうになった。
だけど、間一髪のところで、忍を受け止め俺もその場に倒れこむ。
俺に支えられたことに驚いたのか、忍はまた逃げようとしたが俺はそれを許さなかった。しっかりと忍の腕を掴み離さない。
「はな・・せよっ!!」
「駄目だ!」
なおも、逃げようとする忍を離すまいと抱きしめれば大人しくなった。
「忍・・・逃げないでくれ。」
抱きしめた忍をくきつく強く抱きしめる。
「・・みや・・・ぎ」
名前を呼ばれた。
また俺の事を一時でも思い出したのか、俺のことを呼んだ。
驚き忍を見ると以前とは違い真っ直ぐに俺を見つめていた。
俺を見て恐怖することも叫ぶこともしない。
「宮城・・なんで、追いかけてくるんだよ・・・」
「忍・・・俺の事思い出したのか?」
その言葉に少し顔を伏せて、忍は言った。
「あの時宮城が俺たちの関係のこと・・話してくれて嬉しかった。だけど同時にやっぱ無理だって思った。それで逃げた・・・。逃げたら逃げただけ宮城との思い出が心から溢れてきて、いつの間にか記憶が戻っていた。記憶を失っていたほうが楽だった。姉貴との結婚も、別れたことも思い出さなくてすんだのに・・・。思い出したら余計に苦しくなって会うことも出来なくて・・・」
忍は涙を流しながら話した。
そんな忍をもう一度抱きしめると、俺は言いたかったことが沢山あったのに全部忘れていた。
ただ忍への思いだけが溢れてきた。
「忍、もうお前を離したくない。絶対に・・・だから俺のところに帰ってきてくれないか?」
耳元で言うと、忍の体はビクッと震えた。次に“でも・・”という言葉が聞こえた。
「でも、無理だよ・・・姉貴と生活してる宮城の傍になんて帰れない・・・」
「もう理沙子とは、離婚した・・・」
「え?」
俺の言葉に驚いたのか、忍は俺から離れ見開いた目で見ていた。
「俺には忍しかいない。」
「う、そだ・・・信じられない・・・」
顔を左右に振り、また涙を流し忍は俺を拒絶する。
「本当だ忍!」
「嘘だ!信じられない!俺はもう・・・裏切られたら、・・今度こそ・・」
忍は下を向き表情を見せない。ポタポタと溢れ出る涙、それが忍の不安だと教える。
「忍、不安にさせてすまん。信じられないならこれからの時間全てで信じさせるから。」
泣いている忍の顔を上げさせ、優しくキスをする。
まだ溢れでることを止めない涙をすくってやると、忍から抱きついてきた。
それを俺は全身で受け止める。
しっかりとずっと求めていた温もりを、幸せを抱きしめる。
次へ。