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再婚し、理沙子と再び暮すようになって半年が過ぎていた。
前の結婚生活の時より会話もあり、俺は仕事ばかりに集中している生活がなかった。
前より理沙子と生活がうまくいっているように見えるのは忍のおかげだろう。
俺に忍をもうどうこうする権利などないけど、忍がいなくなった日からずっと忍を探している。
定時に仕事が終わるよう仕事をしっかり大学で片付け、家には持ち帰らないようにしている。
大学の帰りは少しの時間でも忍を探す。
もうこの街にはいないかもしれないが、今俺を保っているのが忍を探さなくてはいけないという使命感だから。
理沙子にはバレないよう毎日帰宅までの僅かな時間を使っている。
理沙子とうまくいってる理由が忍を探しているからなんて、なんて皮肉なことだろうと思う。
理沙子と生活を始めても、やはり理沙子に恋愛感情など芽生えることはなかった。
そんな気持ちでは夜の生活などもできるはずなどなく、俺はそれを避けている。
こんな生活いつまで続くのかと思うが、いつも後から気が付く。
これは一生続くのだと。俺にとっては忍がいなければ、どんな人生を送ったって一緒に変わりはない。
久々に理沙子の実家へと顔を出していた。
実家には理沙子の父親であり俺の職場の上司の学部長と奥さんがいる。
仕事場以外で上司に会うのは不思議な感じだが、学部長とは親子と変わりない関係。
きっと未だに抵抗を持っているのは俺だけだろう。
「義父さん」などと呼べるはずもなく「学部長」と呼んでしまう。
でも学部長もいい人でなにより文学愛好者で、話が合う。恙無い姑関係。
なんの問題もない素晴らしい家族関係だろう、ただ一つ俺の感情の欠落を除いては。
理沙子は今、街に買い物に出ていて、自宅にはいなかった。
それを待ちながら、学部長と会話を楽しんでいたら。
急に玄関が大きな音をたて開いたかと思えば、今度は廊下を走ってくる音。
そして、大きな音共に居間の扉が開けられた。
「理沙子、静かに入ってきなさい。」
扉を開け、息を切らしているのは理沙子だった。学部長の言った言葉にも耳を貸さずに大声を出した。
「お父さん!!」
急な叫び声で学部長も驚いたのか言葉を発せずにいた。
「お、お父さん、・・・見つけたわよ!!」
「な、なんだね、急に・・・」
理沙子の焦りように、学部長と同じく俺も驚いてしまって理沙子の次の言葉を待つしかなかった。
だけど次に発した言葉と共にそこに現れた人物をみて息を呑んだ。
「忍を見つけたわ!!」
「本当かね、理沙子?!」
「ほら、忍入りなさい。」
理沙子に引っ張られ、忍が入ってきた。
「忍っ」
「!!」
確かにそこにいるのは忍だった。
半年振りに忍は姿を表した。困惑し挙動不審に周りを見渡している。
いったい理沙子はどこで忍を見つけてきたのだろう。
俺がずっと探していても見つからなかったのに。ずっと忍はどこにいたんだろう。
俺に会いたくなくて逃げていたんだろうか。今もここにいたくないのかのように、俺と視線を合わせようとしない。
俺はここにいないほうがいいだろう、だけど足が動かない。
俺の目は忍に釘つけになっているから。
「忍、今までどこにいた。」
「・・・・」
学部長も、忍に近寄り話しかけるが返事が返ってこない。
それよりか俺以外の人物とも忍は目を合せようとしない。
「あの・・・」
「なんだ、忍?!」
「あなたたち・・・誰ですか?」
俺も学部長も、そこにいる者全員が声を失ったのかのように黙ってしまった。
誰もが忍が発した言葉を理解するのに時間がかかった。
忍は自分が言った言葉が何かまずいものだったかのように感じたのか、少し戸惑ったようにしていた。
そんな忍を見て先に言葉をかけたのは理沙子だった。
「忍・・・あんた、何言っているの?」
理沙子は忍の肩を掴み、問いただすように叫んだ。
「わ、ちょっと・・あんた誰なんですか?」
その言葉にみんなは絶望した。
忍はふざけてなどいない。
真面目に真剣に言う忍の言葉に嘘はない。
半年振りに戻ってきた忍は俺たちの事を忘れていた。
忍は帰ってきた。幸か不幸か、全ての記憶を失って。
あの後、家から出て行こうとした忍は家族によって引き止められた。
病院に連れて行かれそうになって忍は抵抗した。
忍の感情が振り切れてしまいそうで、それ以上の無理強いは出来なかった。
そして家に残るというのを約束に忍は病院へ行くのを拒否した。
何故そんなに病院へ行くのを怯えるのか分からないが、必死な忍を俺は止められることが出来なかった。
しばらく忍は実家で生活をしていた。
家族の誰とも深くは接しないように一日の大半は部屋にこもっていた。
しかし忍はある日、感情が振り切れ意識を失ってしまった。俺の存在により。
第三話へ。