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コンコン
ある一室でノックの音が響く。
「どうぞ。」
部屋の主がそれに答えると、ノックした人物は部屋に入ってきた。
「父さん、大事な話って何?」
父である大学学部長の部屋を訪れたのは忍だった。
「おお、来たか。ま、座れ。」
席に座るよう促された忍は何も気にすることなく席に座った。
父親はなにか真剣な表情をしていて忍もそれに気がついたのか、少し背筋を伸ばして父親の“大事な話”というのを待った。
少し、静かな時間が流れ静かに父親は口を開いた。
「忍、宮城君がな、・・」
『宮城』という名前に忍はピクッと反応する。
いったい宮城について何を話されるのか、忍はドキドキしながら次の言葉を待っていた。
しかし次の父親の言葉を聞いた忍は、言葉を失いそうになった。
「宮城君は、理沙子と再婚することになった。だからまたお前の義兄さんになる。」
「・・・え?」
思考が止まりそうになった。何にも考えたくないというかのように頭は真っ白になっていた。
心だけが驚きで鼓動が早くなって体のなかでフル稼動している。
鼓動の音が耳にも強く響き、嫌でも思考は再開される。
父親は今なんと言ったのだろう。言い間違いではないのか、自分の聞き間違いではないのか。
父親の言葉の理解よりも自分の勘違いであって欲しいという思考の方が働いている。
「忍、次の日曜日にまた向こうの親御さんとの顔合わせがあるから、お前も来るようにな。」
父親が話していても、忍の耳には届いていない。
いや、届いていたがそれは嘘でなく、言い間違いでもなく、真実なんだと言っているからこそ、それを受け付けたくなかった。
話が終わると忍は部屋から出て行き構内を歩いていた。
父親の話が頭を巡っていて、嫌でも考えるのはそのことばかり。
宮城は一度もそんな話を自分にしてくれなかったのに。
いつから?
なんで教えてくれなかったんだ?
宮城は俺と別れるつもりなのか?
今はその事ばかりが忍の心を支配する。
「忍?」
後ろから声をかけられ、振り向くと宮城がいた。
講義終わりなのか、本や資料を沢山抱えていた。
いつも通りに声をかけてくる宮城に先ほど聞いた話が重なり心はパンクしそうだった。
なんでそんなに普通にしていられるのか。
もう俺と別れる決意をしているのか。
最初から付き合っていたと思っていたのは自分だけだったのかと、怒りが湧き上がってくる。気づいたら忍は怒鳴っていた。
「宮城!!何で黙ってたんだよ!!」
「忍、どうかしたのか?」
訳が分からないという風に宮城は首をかしげる。それが更に忍を苛つかせた。
「どうかしたじゃねぇ!!姉貴とのことっ!!・・・・」
忍が宮城に掴みかかると持っていた物はバラバラと落ちた。
その音と忍の叫び声で周りにいた学生達は何事かと奇々な目で見ていた。
それに気がついた忍はいったん宮城から離れた。
宮城も忍の言おうとしていることが分かったのか、少し焦った表情を見せた。
それに気がついた忍は逃げた。後ろで宮城が叫んでいたかもしれないが、忍はそれに答えることなく走っていってしまった。
次へ。